研究活動の概要
研究活動の概要
最近の試み
‣機械学習による橋梁診断支援の研究
福島県産学連携ロボット研究開発支援事業の補助金交付を受けて「ドローンを活用した省人化・効率化を目指す橋梁点検システムに関する研究開発事業」を進めています。この中で、機械学習を用いた橋梁劣化状況診断をテーマに研究開発に取り組んでいます。橋梁の点検は、近接目視点検が義務付けられており、車道から桁下へ到達可能な場合は高所作業車、到達不可能な大型橋梁の場合は橋梁点検車やロープアクセスによって橋梁上部から点検します。いずれの場合においても高所における作業となり、作業者の安全確保にも課題が残ります。そのため、点検者の作業効率の向上や点検の見落としを抑制するためのシステム開発を目指しています。
‣ディープラーニングによるリモートセンシングデータを分類する研究
人工知能の分野の一つである機械学習の分類をリモートセンシングデータに適用することにより、人間が判読もしくは分類するメカニズムをコンピュータで行います。例えば、専門家ではない方にはSAR画像の判読は難しいため、誰でも専門家と同じような判読(分類)ができるような学習モデルの構築を実施することを目指しています。具体的には、SAR画像から氷山を検出するための学習モデルの構築を実施しており、これによる氷山検出の可能性を検証しています。
* ディープラーニング: ニューラルネットワークの発展型であり人間の脳を模擬した計算をコンピュータで実現するもの
‣VNAによる海氷の誘電率計測と厚さ情報抽出の研究
SARを用いた海氷の厚さ情報の抽出では、海氷の誘電率を正確に知る必要があります。これまでは、海氷を特殊なドリルにより採取して塩分濃度を計測し、その測定結果から誘電率を計算して求めていました。最近では可搬性に優れたネットワークアナライザが利用できるようになりました。これを用いて現場観測における誘電率の直接計測を実施しており、効率的な計測方法やシステム構築の研究を実施しています。最終的には、誘電率の計測結果から求められる海氷の厚さ情報の精度向上を図る研究へと応用していきます。
* VNA: Vector Network Analyzer, ベクトルネットワークアナライザ
研究の一部紹介
南極大陸は陸水の約7割を氷床として保存しており、その多くは氷河により流出しています。その結果、氷床の涵養と融解に差が生じると海面変動に大きな影響を与えます。白瀬氷河は南極の他の氷河と比較しても流動速度が速く、南極氷床の質量収支を把握する上で白瀬氷河の流動モニタリングは重要です。このモニタリングを衛星リモートセンシング技術を用いて行っています。
‣東日本大震災に関する研究
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震および津波の被害状況を把握するため、衛星リモートセンシングを用いたハザード情報を提供してきました。右図は、地震前後のALOS衛星搭載PALSAR高分解能モードデータを干渉処理(InSAR)して作成した差分干渉画像(地殻変動量図)です。InSARは衛星と地表との距離差を計測でき、地震による地殻変動を衛星の視線方向の相対的な地殻変動量として表します。この観測では画像の西側から東側へ観測しているため、地表が衛星に近づく場合は西方向の水平変動もしくは隆起、地表が衛星から遠ざかる場合は東方向の水平変動もしくは沈下を意味しています。2011年3月19日に発生した茨城県北部地震や、4月11日に発生した福島県浜通り地震による地殻変動を確認できます。
* InSAR: Interferometric SAR, 干渉SAR
学生の研究はこちら
北海道サロマ湖における誘電率の計測風景
ALOS PRISMによる白瀬氷河のオルソ画像
(c) JAXA analyzed by AIST GEO Grid
干渉解析による東日本広域地殻変動量画像
機械学習による橋梁診断支援のスキーム